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ぽえむん「空に飛ばした夢」

2015年05月13日



僕は人がこの地上に縛り付けられているのは間違っていると思っていた。

僕はどんな嵐でも人が安全に航海ができる潜水艇を作りたかった。

誰もが楽しんで風を受けて空が飛べる大きな竹飛行機を作りたかった。

僕の夢をほとんどの人々は嗤った。

しかし僕は諦めなかった。

やがて、僕の夢についてきてくれる数人の友人たちがあらわれた。

潜水艇の実験の日、僕はもっとも仲のよかった友人・作造にその役目を頼んだ。

作造は笑顔でこたえた。

作造は潜水艇に入り、そのままあがってこなかった。

引き上げられた時には、作造は眠るように死んでいた。

一酸化炭素中毒だった。



竹飛行機の実験の日は、潜水艇の実験の翌日だった。

竹飛行機の実験も、海の上だ。

落ちた僕を拾えるよう、海には船が出ている。

その船には、僕の夢を支え続けている友人の千恵、幸雄、権、鉄志が乗っている。

そして、昨日亡くなった作造の遺体が、僕の実験を見届けてくれるようにと、寝かせられている。

空に張った板の階段を走る。

いままでのことが走馬灯のようにすぎる。

僕は階段の先端においた竹飛行機に乗って、思い切り空を蹴った。

飛ばした。

僕は風になる。

ああ、やはり空はいいものだ!!

多くの人が、この喜びを味わえたら、どんなにいいだろう!

船の上で、みんなが喜んでいるのが見えた。

僕は何度も船の上を旋回し、自由に大空を駆けた。

しかし、その瞬間、風向きが大きく変わった。

なんとか態勢を立て直そうとしたが、無理だった。

僕は海に落ちた。

落ちた海の中はとても綺麗だった。

海のなかで僕は考える。

今回の実験は成功だ。当初の予測に比べたら飛距離も安定性も申し分ない。

もっといろんな風向きに対応できる一層の安定性の向上と、竹飛行機の軽量化も考えないといけない。うまく風に乗れてさらに少しでも安全に飛べるにはもっともっと改良が必要だ。

もっと海の中にいたかったが、みんなが心配するといけない。

海上に顔を出したら、船の上のみんなが何とも言えない顔で歓声をあげていた。

船まで泳いでよじ登ると、千恵が手を貸してくれた。

僕はその細く少し力を入れたら折れてしまいそうな指に、少しだけ僕の熱をこめた。

千恵の目は、僕に無言の熱を返してくれる。

この夢が叶ったら、僕は千恵に思いを伝えたい。

それまで、僕の思いに気づかぬふりをして、友人として僕を支え続けてくれる千恵。

船にあがると、みんなが拍手でずぶ濡れの僕を迎えてくれた。

鉄志が無線機を握り締めて、嬉しそうに僕にまくしたてる。

「いま、あちこちから、融資の申し出が殺到してるんだよ!聞こえるだろ!」

鉄が抱きしめるように抱えている無線機の向こうから、ひどい雑音にまぎれて、会社名を名乗るいくつもの声が、それぞれ出せる金額を叫んでいた。

竹飛行機は、陸の多くの人に見られていたらしい。

僕たちは何度も何度も頭をさげて回った。その時には、誰も聞いてもくれなかった。

今は、先を争ってうちが金を出すからうちと契約してくれと言ってきている。

無言で幸雄が手ぬぐいとサイダーを渡してくれた。

千恵が、作造の遺体に優しく語りかけていた。

「サク、あの無線聞こえるだろ?健坊の竹飛行機、すごかったよね。あれをみんな見てたんだよ。サク、健坊の夢がみんなに認められはじめたんだよ、私達の夢だよ」

僕は眠ったままの作造に声をかけようとしたが、できなかった。

涙を流すのは今じゃない。僕たちの夢が実現した時だ。

僕は顔を大きく拭ってサイダーを流し込む。

今の僕の顔は、誰も見ないでほしい。



潜水艇と竹飛行機の夢。

叶うまで僕は諦めない。

この夢が馬鹿げているなら、

笑いたい者は笑えばいい。

僕の志のために命を尽くしてくれた作造に、

僕は夢の実現で応えるのだ。














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Posted by アマミちゃん(野崎りの) at 23:05│Comments(0)ぽえむんアマミちゃんの夢
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